変わる治療
「どうしたら治療による心理的な影響を少なくできるか、身体への合併症を少なくできるかということは、だいぶわかってきています」
たとえば、物心もつかないほど幼い頃に治療を受けた人のなかには、「心的外傷徴候(PTSS:Post-traumatic stress symptom)」と言い、自分では覚えていないにもかかわらず、痛かった記憶、大変な出来事を経験したことが無意識のなかにトラウマのように残ることがあるという。
「たとえば、背中に針を刺す腰椎穿刺の場合、自分の見えないところでブスッと針を刺されて痛い思いをした子どものなかには、後ろに人がいるだけでビクッとするようになったり、ちょっと背中を触れられただけで条件反射のように痛みを思い出したりしてしまう子もいます。そのため今では、痛みを感じないように全身麻酔をかけて、記憶を残さないように行うことが多くなりました」
これはほんの一例だ。治療自体もなるべく心理的影響や晩期合併症が生じないようにと改善されている。もう一つ変わりつつあるのが、長期的なフォローアップ体制に目が向けられてきていること。
治療中は医師や看護師、薬剤師、教師、保育士などがチームを組み、副作用や家族関係、学習の問題なども含めて治療にあたり(トータルケア)、治療が終了したあとも、臨床心理士、ソーシャルワーカー、ボランティアなどが加わり、晩期合併症が生じれば、家庭医、産婦人科医、泌尿器科医、内科専門医、精神科医など、各専門医への紹介、あるいはサポートしてもらうという形で、さまざまな専門家がかかわり、治療が終わってからも引き続きトータルにフォローできる体制の必要性が認識されつつある。
「難しいのは、小児医療から成人医療への“移行”です」と石田さんは話す。
小児がん経験者とはいえども、ずっと小児科だけにかかり続けるわけにはいかない。しかし、成人診療科の医療者たちは当然、これまでの経過を知らないし、専門家ではあっても小児がんやその晩期合併症に詳しいわけではない。さらに、小児がんの治療という大変な時間を共有しているからこそ、患者さんもご家族も、もともとの主治医に対する信頼が厚い。
この移行の問題を解消するツールとして、小児がんの晩期合併症にはどのようなものがあり、どのようなフォローが必要か、現在ガイドラインを作成しているところだ。また、「母子健康手帳」のように、治療や健康状態の記録をする「長期フォローアップ手帳」も作成している。