受け止める覚悟


木下さんのもともとの専門は、精神科だ。緩和ケアの世界に進んだのは、「たまたま」。精神科医になって、3人目に担当した患者さんが、たまたまがんの患者さんだった。その後も、木下さんの精神科外来にはたまたまがんの患者さんが多かった。そして、たまたま、自身も睾丸腫瘍にかかった。なかでも、直接的な要因となったのは、精神科医として多くのがん患者さんに出会ったことだ。
「『痛がっているのは精神的なものではないか』と、精神科に紹介されてきた患者さんが、ことごとくそうではなかったんです。痛みそのものが和らげば問題は解消される方が殆どでした」
同じようなケースを何度も経験するうちに、「自分で対応しよう」と思うようになり、当時勤めていた病院で、同僚の外科医とともに緩和ケアを始めた。それが、出発点だ。

「精神科でめざしていた医療と緩和ケアは似ている」と木下さんは言う。精神科時代にめざしていたのは「症状をなくすというより、患者さんが社会復帰できるようにする」こと。それは、「つらさを軽減し希望する療養場所で過ごせるようにする」という、緩和ケアでめざすことと同じだ。また、「わかりにくさも似ている」、とも言う。

受け止める覚悟

「精神科医療も緩和ケアもわかりにくいでしょう。緩和ケアについて言えば、身体でも心でもつらいことがあれば、医師でも看護師でもいいので、身近な医療者に相談してほしい」さらに、「技法以上に、関係性が重要」ということも同じと話す。
「精神科治療では、専門的な精神療法の効果は1割程度で、それ以上に関係性が効いていると言われます。それは緩和ケアにおいても同じなんですね。技法よりもコミュニケーションが、しかも言葉そのものよりも、一緒に悩み一緒に考える関係が大事。医療者も悩むということが大事なんだと思うんです」
一緒に悩み考える関係があるからこそ、時には厳しいことも言う。患者さんの本当の想いを探るには、厳しい見通しも伝えなければいけない場面があるからだ。
「患者さんがどんなに取り乱しても、付き合える覚悟があるから、あえて言うんです」

つらい時につらさを受け止め、一緒に悩んでくれる人――。それが、緩和ケア医・木下さんのスタイルだ。

(2013年2月)