発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH):仲間と繋がることで見えた希望の道

未だ治療方法が少なかった難病、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)。
多くの人に認知してもらい、お互いが支えあえる世の中に

Sep 13, 2024

社会人になってすぐに突然訪れた変調

「動機がひどく息切れもして、心臓病ではないかと思ったこともありました」

希望を胸に抱いて就職したものの、すぐに宮崎さんは体調に異変をきたします。自宅の階段を上がるだけでも辛くなる原因は、再生不良性貧血だと診断されました。すべての血液が足りず、自覚をしていませんでしたが、あざも30か所以上できていました。この時、社会人生活を始めてわずか1カ月ほどの新入社員でしたので平日に仕事を休んで病院に行くことに抵抗があり日曜日にやっている病院を探し検査をしていました。しかし電車の中でどうしても体調が悪くなり急遽病院に行ったところ1年間余りの入院を余儀なくされます。入院中は薬の服用だけではなく、輸血も頻繁に行っていました。
1年後に症状が改善し、やっと退院となりましたが、わずか10カ月後には症状が再び悪化。もう一度入院することになり、その時点で大学病院へ転院しました。入院生活は合わせて2年近くにわたり、大学病院での検査の結果、再生不良性貧血が発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)へと移行していたと診断されたのです。
「病名は変わりましたが、何の治療法もなく、再生不良性貧血のように情報がたくさんあるわけでもなかったので、不安な気持でいっぱいでした。担当の医師と話してわかったことは、PNHは命にかかわる病気ではないということだけでした。しかし、だからといって決して簡単な病気ではないことを、宮崎さんはすぐに実感することになります。

健常者に見えるが故の悩みとは

「風邪をひいた、発熱した、旅行に行って疲れたといったような、体にストレスがかかる状態になると朝起きた時に血尿が出るんです。同じ病気の皆さんはコーラ色ってよく言われますが、どちらかというと炭に近いような色で、初めて見たときは衝撃的でした。自分の体が、まるで怪獣になってしまったようで」。
貧血は常に感じていますが、他の人からはわかりづらい状態なので、辛い状態でもいつも宮崎さんは優先席に座るのを躊躇してしまうと言います。駅の階段の上り下りも辛いので、エレベーターのある場所を毎回探しているうちに、電車に乗るのが少し億劫になってしまったのだとか。また、好きだった山登りやテニスも頭痛が起こったり疲れてしまうためできなくなってしまったそうです。
「それと風邪やインフルエンザ、コロナなどに非常に感染しやすいのもこの疾患の特徴です。一緒にいる人が少し鼻水や咳が出ている位のちょっとした症状でも私の場合感染してしまうのです。私の病気のことを知っている相手でも、毎回のように『今日の体調は万全ですか?』と聞くのは心苦しいですし、かといって自分が感染すると人よりも悪化しやすいので。自分が気をつけて、マスクをしていることが多いですね」。
宮崎さんは、友達からあまり気を使われたくないとの理由で、限った人にしか病気のことは伝えていないそうです。しかし、病気に感染しやすいという特性があるため、本当はPNHという持病を持つことを知っておいてもらい、それ以外の部分では他の人と同じように接してもらうことができないかという複雑な気持ちを今も抱えています。
「見た目が健常者そのものなので、ちょっとした風邪をひいても高熱になって倒れてしまうというイメージがわかないのだと思います。私自身、病人として接してほしいのかと言われると、そういう訳ではないので、そこはいつも悩んでいる点です。ただ、社会に対しては最近、人と人の思いやりや優しさなどが希薄になっているような気がします。ひとりひとりがもう少しつながりを大事にして、社会全体で病気だけではなくすべての人に寄り添えるようになれればいいなと思っています」。

患者会の存在を前向きに生きる力に

PNHを発病してから、しばらくは同じ病気の人と知り合う機会もなかったという宮崎さん。PNHは、日本国内に数百名程度の希少疾患だということもあり、同病の人と知り合えるようになったのは、ブログで知り合った方に患者会(PNH 倶楽部)の存在を教えてもらったことが最初でした。
「何よりも気持ちを共有できることが心強かったですね。会の集まりがあった時には、体調を万全にしてホテルを取って参加したほどです」。
実は、宮崎さんはご自身のPNHが再生不良性貧血からの移行だということに理解が追い付かなかったそうです。
「もちろん、そういう方がいることは知っています。でも、そういった情報も患者会と接するまで知らなかったことが多くて。今は、いろいろな情報に触れることができて、やっとその面では気持ちが落ち着いてきました。何よりも最初は、初めて会った15、16人の方が全員PNHだということに衝撃を受けました。そして、年齢を超えて同じ悩みを持っているのだとわかりました」。
ご自身も積極的に患者会の活動に参加するようになりましたが、患者会における人手不足やPNHの認知度の低さ、PNHを発病した方の窓口としての役割など、さまざまな問題意識をお持ちです。
元々、人と人との輪を広げることが好きなので、ただ病気の相談に乗るだけではなく、身近な場所への旅行や一緒にお料理をするような企画も盛り込むなどして患者同士で小さな悩みを共有したり、不安を言ったり聞いたりする場を作っていきたいと意欲的です。また、近年はオンラインのみの集まりで、なかなか対面で集まる機会が少なくなっていたので、講演会や交流会を行うことで同病の人と、そうでない人ともつながりを深めていきたいと考えています。
「いつ誰が病気になるかわかりません。PNHだけではなく、いろいろな病気に対して思いやりを持てる世の中にしたいなと思います」。現在、患者会の副代表としても活動される宮崎さんは、患者会を通じてもっと世間に認知してもらえるような活動や、人とのつながりができるような活動をしていきたいと話します。