道路の左右で異なる風景に愕然とした
翌日になると、病院ではトリアージが始まった。緑、黄、赤、黒。大規模災害発生時には、医療の緊急度や重症度に応じて、患者さんの分類が行われる。緑は軽症で専門医の治療を必要としない患者さん、黄は多少対応が遅れても命に危険はない患者さん、赤はすぐに処置を行えば命を救える可能性のある患者さん、そして黒は死亡症例、あるいは救命の見込みのない症例だ。最初にトリアージで運ばれた患者さんは、黒だった。
重症患者さんが次々と運ばれてくるなか、薬剤部も緊急体制が敷かれ、いつもは2名で行っている夜勤も、8~10人に増やした。
院内対応に追われるなか、月曜日からは石巻を中心とした被災地の支援活動も始まった。北村さん自身が被災地に行ったのは、震災から10日ほど経ってからのことだ。医師2人、看護師2人とともにチームを組んで、仙台市から南に下った岩沼市にある避難所に向かった。道中、道路を挟んで海側と内陸側の景色の違いに愕然とした。内陸側には変わりない町並みがあるのに、津波が押し寄せた海側は何もない。
現地に着くと、遺体安置所になっていた体育館には、棺に入らない遺体が、ビニールシートからもはみ出すような状態で並んでいた。
10日が経っていたが、皆、半狂乱の状態だった。「知っている人もいらっしゃったのですが、言葉にならなくて」。なんとかかけた言葉は、「生きていて良かったね」。